正月を迎えて数日後、浮かれた雰囲気も徐々に薄れ、世間は仕事に学校にと動き出していた。
星ノ森魔法芸術高校も例外ではなく、正月休みで帰省していた生徒達が明日から始まる授業に備えぞくぞくと寮に集まり始めている。
 そんな中、一条寺帝歌はいち早く戻って一人予習に勤しんでいた。
 「……もう、こんな時間か」
冬特有の低い太陽のせいか、いつもより眩しい夕日が窓から差し込んでいる。
それに止め時を悟った帝歌は、手にしていたノートの最終チェックをすると満足そうに頷いた。
「よし、完璧だ。後は……」
その時、背後でガチャリと音がして部屋の扉が開いた。帝歌は驚くことも振り返ることもなく、ただ淡々と声をかける。
「戻って来たか」
ノックもなしに無造作に扉を開く人物など、思い当たるのは幼馴染で変わり者のルームメイトくらいだ。
「……帝歌、いたんだ。新年、あけましておめでとう」
予想通り、墨ノ宮葵のおっとりとした口調が返ってきた。
「ああ、おめでとう」
帝歌はノートに目を落としたまま答える。
「太陽、眩しいね。初日の出だ……」
「初日の出どころか夕方だぞ。明日の授業の準備は大丈夫か?」
「授業? だって今日は元旦で……あれ? 今って……」
戸惑う葵の声に、帝歌の視線はようやく手元のノートから離れた。それと同時に嫌な予感が湧きおこる。
「……まさか、お前――」
葵の方に振り返った瞬間、ドサリと重い音が室内に響く。
まるで帝歌の言葉が幕切れの合図となったように、葵は床に倒れ込んでいた。
「墨ノ宮!」
慌てて駆け寄り抱き起すと、その目の下には黒々としたクマが出来ている。
「お前……またやったな!?」
そう、『また』だ。
書に夢中になるあまり寝食を忘れ、時には時間の感覚さえわからなくなるという、本人はもちろん周りの心臓にも良くない葵の悪癖。
しかも先ほどの言動から、葵は今現在を1月1日、元旦と認識している。
と、いうことは――だ。
――こいつは一体どれだけ寮にいた? その間食事は? 睡眠は?
そんな心配が帝歌の頭を駆け巡る。
「おい、起きろ! そのまま寝るな!」 ガクガクと肩を揺らすと、葵はうっすら目を開けてつぶやいた。
「ああ、久しぶりだねえ。お正月に会うの……いつ、以来だろ……」
それはなんとも幸せそうな笑顔で。
――だから正月じゃない、とか。
――こっちの心配をよそに、なんだその顔は、とか。
様々な思いがない交ぜになってイラッとした帝歌は、思わず葵を抱き起していた腕を離す。
室内に響いたのはゴチンという衝撃音と小さなうめき声、慌てた帝歌の謝罪だった。


続きは2017年1月10日(火)発売の電撃Girl'sStyle2月号で!
   

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